AIにシステムを作らせるとき、最初に決まるのは道具ではなく順番です。思いついた順に指示を出すのをやめ、先に仕様を文書で固定してから実装させる。これだけで作り直しが目に見えて減ります。理由は単純で、指示が食い違ったときに戻る場所ができるからです。この記事は、関連会社の介護現場の業務をもとに、代表がAIコーディングで社内向けの運用ツールを内製してきた記録です。効果を保証するものではなく、同じやり方を試す方への手順の共有です。(2026-09-07 時点の情報。制度・統計の出典:厚生労働省「介護分野における生産性向上ポータルサイト」)
介護向けAIの要件定義とは、システムを実装させる前に目的や対象業務、守るべきルールなどを文書で固定する工程です。AIへの指示が食い違った際に戻る場所を作り、作り直しや同じ議論の繰り返しを防ぐ役割があります。実運用に耐える仕様になるまで版数は上がる前提で管理し、AIへの指示書とは分けて配置します。
なぜ先に書くのか
AIは前の会話を都合よく覚えていてくれるわけではありません。日をまたぐ、別の作業が挟まる、少し言い方を変える。それだけで前と違うものが返ってきます。そのとき、口頭のやり取りしか残っていないと「どちらが正しいか」を決める根拠がありません。
- 戻る場所ができる:食い違いが出たら文書に戻り、文書を直してから作り直す
- 同じ議論を繰り返さない:一度決めたことが残るので、蒸し返しが減る
- 途中から関われる:別の人が入っても、前提が読めば分かる
逆に言えば、文書がないままAIに任せると、直すたびに前の判断が消えていきます。作った本人でも、二週間後には何をどう決めたか思い出せません。

要件定義に何を書くか
最初から完璧である必要はありません。ただし、次の項目は抜けると後で必ずもめます。
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 目的 | 何のために作るのか。誰のどの手間を減らすのか |
| 対象の業務 | どの業務を扱うか。どこからどこまでか |
| 扱うデータ | 何を入力し、何を出すか。どこに保存するか |
| 画面と操作 | 誰がどの画面で何をするか |
| 絶対に守るルール | これを破ったら不合格、という条件。個人情報の扱いなど |
| やらないこと | 今回は対象外にするもの。ここが曖昧だと際限なく膨らむ |
| 完了の条件 | 何をもって完成とみなすか |
特に太字の2つが抜けやすい項目です。「絶対に守るルール」と「やらないこと」を先に書いておくと、あとで方針がぶれたときに立ち返れます。介護の業務では、個人情報の扱いが絶対のルールに入ります。この点は介護でAIを使うときの個人情報の考え方にまとめています。

版は二桁まで上がる前提で組む
正直に書くと、実運用に耐えるものになると要件定義の版数は二桁まで上がることがあります。現場から「この場合はどうなるのか」が出てくるたびに、仕様側を直すからです。AIを使えば一度で完成する、という前提で始めると必ず苦しくなります。
- 版を上げる:直したら版数を上げ、何を変えたかを1行残す
- 古い版を消さない:なぜその判断をしたかを後から追えるようにする
- 文書を先に直す:コードだけ直して文書を放置すると、次の指示から食い違いが始まる
この「文書を先に直す」が守れないと、せっかく書いた仕様が現実と合わなくなり、参照されなくなります。そうなると元の口頭運用に戻ります。

指示書は要件定義と分けて置く
私たちは、案件ごとに要件定義(何を作るか)とAIへの指示書(どう振る舞ってほしいか)を分けて置いています。指示書には、守ってほしい進め方や、やってはいけないことを書きます。これを各案件に必ず置くと、日をまたいでも指示がぶれにくくなります。
- 要件定義:目的、対象、データ、画面、ルール、やらないこと、完了条件
- 設計:どう作るか
- バグ台帳:起きた不具合と、直した内容
- デプロイ手順:どうやって反映するか
- AIへの指示書:どう振る舞ってほしいか、何を禁じるか
もう一つ決めているのは、同じ内容を複数の文書へ書き写さないことです。書き写すと必ず片方だけ直され、どちらが正しいか分からなくなります。参照する場所を1か所に決めて、他はそこを指すだけにします。導入の順番そのものは介護事業所のAI導入|どの業務から始めるかをご覧ください。

よくある質問
AIに任せるのに、なぜ先に仕様を書くのですか?
思いついた順に指示を出すと、前の指示と食い違ったときに、どちらが正しいかを決める根拠がなくなるためです。仕様を先に文書へ固定しておくと、食い違いが出たときに文書へ戻って直せます。文書を直してから作り直す、という順番が保てます。
要件定義には何を書けばよいですか?
目的、対象の業務、扱うデータ、画面と操作、絶対に守るルール、やらないこと、完了の条件です。特に「やらないこと」と「絶対に守るルール」は抜けやすく、後から一番もめる部分なので先に書いておきます。
どのくらいの分量が必要ですか?
最初から完璧を目指す必要はありません。ただし実運用に耐えるものになると、版数は二桁まで上がることがあります。AIを使っても一度では終わらない前提で、直しながら育てる形にしておくほうが現実的です。
AIへの指示書は要件定義と別ですか?
分けています。要件定義は「何を作るか」、指示書は「どう振る舞ってほしいか」を書きます。指示書を各案件に必ず置いておくと、日をまたいでも指示がぶれにくく、途中から関わる人にも前提が伝わります。
文書が増えて管理できなくなりませんか?
なります。だから同じ内容を複数の文書へ書き写さないことを決めています。書き写すと必ず片方だけ直され、どちらが正しいか分からなくなります。参照する場所を1か所に決めて、他はそこを指すだけにします。
- 先に仕様を文書で固定してから実装させる。食い違ったとき戻る場所ができる
- 「絶対に守るルール」と「やらないこと」を必ず書く。抜けると後でもめる
- 版は二桁まで上がる前提で組み、コードより先に文書を直す。同じ内容を複数へ書き写さない
要件定義から一緒に組み立てます。
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