申し送りが長い、という相談をよくいただきます。多くの場合、対策として出てくるのは「要点だけ話す」「時間を区切る」といった運用の工夫です。ただ、それで短くなるのは最初の数週間で、たいてい元に戻ります。原因は話す人の要領ではなく、同じ情報を記録と口頭の2か所に持っている構造のほうにあるからです。この記事は、関連会社の介護現場の業務をもとに、私たちが社内向けの運用ツールをAIで内製してきた経験から、二重入力をどの順番でほどくかを整理したものです。効果を保証するものではありません。
介護の申し送りが長引く理由とは、同じ情報を記録と口頭の2か所に持っている構造のことです。同じ情報が記録から口頭、メモ、再入力と3回移し替えられることで、時間がかかり伝達漏れや写し間違いが生じます。解決には話し方の工夫ではなく、口頭に残すものと記録に寄せるものを仕分けし、二重入力をやめることが重要です。仕分け後にAIを活用して下書きを作成し、人が確認する運用を行います。
長引くのは「二重に持っている」から
申し送りの場面を分解すると、たいてい次のことが起きています。
- 読み上げ:記録に書いてあることを、もう一度声に出して伝える
- メモ:聞いた側が手元の紙やスマホにメモを取る
- 再入力:そのメモを、後で自分の記録に書き写す
同じ情報が、記録 → 口頭 → メモ → 記録、と3回移し替えられています。時間がかかるのは当然で、しかも移し替えのたびに写し間違いと抜けが入り込む余地ができます。「要点だけ話そう」と決めても、何が要点かの判断が人によって違うため、結局は全部読み上げるほうが安全だという結論に戻ります。
だから最初に手をつけるのは、話し方ではなく「同じものを2か所に持つのをやめること」です。

同じ情報を2か所に置くと、片方だけ古くなる
これは介護に限った話ではありません。私たちが社内システムを内製する中で繰り返し経験したのは、同じ処理を2か所に置くと、いつか片方だけが直されるということでした。悪意もミスもなく、単純に「片方を直した人が、もう片方の存在を知らない」だけで起きます。対策として、出力は一つの元データから作り、ルールは書き写さない、という決まりを文書側に固定しました。
申し送りでも同じことが起きています。口頭で伝えた内容が記録に反映されていない、記録は更新されたのに口頭では前の話のまま。この食い違いは、伝達の丁寧さではなく「2か所ある」という構造そのものが生んでいます。だから「気をつける」では直りません。持ち場を1つに決めるしかありません。

口頭に残すもの、記録に寄せるものを分ける
実務としての第一歩は、1シフト分の申し送りを書き出して、次の2つに仕分けることです。
| 記録に寄せる(口頭から外す) | 口頭に残す |
|---|---|
| バイタルの数値、食事量、排泄の回数など、見れば分かる事実 | いつもと違う様子をどう解釈したか(判断の根拠) |
| 実施済みのケアの内容と時刻 | 次のシフトに判断してほしいこと、迷っている点 |
| 予定の変更、来訪の予定 | ご家族とのやり取りで、温度感まで伝える必要があるもの |
| 前回からの変化がない項目 | 安全に直結する注意点(転倒リスクの変化など) |
実際に分けてみると、口頭で扱うべき項目は思っていたより少ないことがほとんどです。逆に言えば、いま口頭の時間の大半は「記録を見れば分かること」に使われています。ここを外せば、読み上げに使っていた時間を減らせる可能性があります。ただしどれだけ短くなるかは、記録の粒度と運用の仕方で変わります。時間短縮を保証するものではありません。
注意点は、減らすのは「読み上げ」であって「伝達」ではないということです。仕分けをせずに時間だけ短くすると、伝達漏れが増えます。順番を逆にしないでください。記録そのものの入力負担を下げる話は介護記録をAIで下書きする、日報として上に上げる部分は施設長日報をAIでまとめるにまとめています。

AIに任せられる範囲と、任せてはいけない範囲
仕分けが済んで初めて、AIの出番になります。順番が逆、つまり「AIを入れれば申し送りが短くなる」だと、うまくいきません。仕分けができていない状態でAIに投げると、長い文章がもう1つ増えるだけです。
| 任せられる | 任せてはいけない |
|---|---|
| 記録から申し送り事項の下書きを組み立てる | 何を申し送るかを決める |
| 前回からの変化を拾って並べる | 出てきた内容が事実と合っているかの確認 |
| 書き漏れが疑われる箇所を指摘する | 医療的な判断、リスクの評価 |
| 書式のばらつきを整える | ご家族への説明内容の決定 |
AIが作るのは下書きまでで、確認は人が行います。介護記録は制度上の根拠書類でもあるため、「誰が確認したか」を決めずに運用に入れないでください。個人情報の取り扱いについては介護でAIを使うときの個人情報の考え方に整理しています。(2026-09-07 時点の情報。制度・統計の出典:厚生労働省「介護分野における生産性向上ポータルサイト」)

現場に出す前にやること
私たちが社内で作ったものについては、現場に出す前に、1年分の運用を想定した検証を374件回しています(日報の可視化ツールについて、月をまたぐ集計や異動が入った場合の挙動などを想定した検証の件数です)。作ってすぐ配る、ということはしていません。理由は単純で、申し送りは止まると業務が止まるからです。試しに入れて不具合が出たとき、いちばん困るのは夜勤帯です。
- まず1シフトだけ、並行で試す:従来の申し送りを残したまま、新しい形を横で回す
- 戻せる状態にしておく:合わなければ即日で元に戻せることを、事前に全員に伝えておく
- 確認者を決める:下書きを誰が確認して確定するかを、シフトごとに決める
- 入力を増やさない:申し送りを短くするために記録の入力が増えたら、本末転倒です
導入の全体の順番は介護事業所のAI導入、現場投入前の検証の考え方は現場に出す前の検証で詳しく書いています。仕組み全体の位置づけは介護経営OSとはをご覧ください。

記録の負担軽減は職員の定着にも直結します。人事の視点からの全体像は介護職の定着率にAIはどう効くかで整理しています。
よくある質問
介護の申し送りはなぜ長引くのですか?
話す人の要領の問題ではなく、同じ情報を記録と口頭の2か所に持っている構造が原因です。記録に書いたことをもう一度口頭で読み上げ、聞いた側がメモを取り、それをまた記録に書く。この往復が発生している限り、時間は短くなりません。
申し送りを短くすると、伝達漏れが増えませんか?
減らすのは「読み上げ」であって「伝達」ではありません。記録を見れば分かることは口頭から外し、口頭では判断が要ることだけを扱う、という切り分けが前提です。この切り分けをせずに時間だけ短くすると、伝達漏れは増えます。
AIは申し送りの何を代わりにできますか?
記録から申し送り事項の下書きを組み立てる、前回からの変化を拾って並べる、書き漏れが疑われる箇所を指摘する、といったあたりです。何を申し送るかを決めるのと、出てきた内容が事実と合っているかを確認するのは、AIには任せられません。
AIが作った申し送りの下書きは、そのまま使ってよいですか?
そのまま使ってはいけません。下書きは必ず人が確認して、事実と違う箇所を直してから使います。介護記録は制度上の根拠書類でもあるため、確認者が誰かをあらかじめ決めておいてください。
どこから手をつければよいですか?
1シフト分の申し送りを書き出して、記録を見れば分かることと、口頭でなければ伝わらないことに分けるところからです。ツールの検討はその後です。分けてみると、口頭で扱うべき項目は思っていたより少ないことが多いです。
- 申し送りが長引くのは要領ではなく、同じ情報を記録と口頭の2か所に持つ構造が原因
- 先に仕分ける。記録を見れば分かることは口頭から外し、口頭には判断が要るものだけ残す
- AIは下書きまで。何を申し送るかの決定と、事実との突き合わせは人が持つ
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