AIの指摘カードとは、訪問看護の記録を月に1回まとめて点検し、書き足してほしい箇所を看護師ごとに1枚ずつ示すスマートフォンの画面のことです。当社は関連会社の訪問看護の記録点検にこの仕組みを使っていますが、運用を始めてから現場の主任と看護部長を通じて「AIの指摘がきつい」「画面が見にくい」という声が届きました。この記事では、そこから何を数え、どこを変え、どこは変えなかったかを、そのまま書きます。
AIで点検の精度を上げても、看護師が画面を開かなくなれば記録は1行も良くなりません。当社がつまずいたのは、まさにそこでした。
届いた声と、そのとき数えた数字
現場から届いた言葉は「指摘がきつい」「見にくい・わかりにくい」「入力が多い」の3つでした。気持ちの問題として受け流さず、直前の納品(8月分の記録・9月10日に共有)を数え直しました。
記録を直してほしいカード(指摘1件につき1枚)は251枚。そのうち赤(必ず直す)が94枚、黄(できれば直す)が150枚、白(気づき)が7枚でした。指摘の型で多かったのは「A欄(評価)がない・O欄(観察)の書き漏れ」の組み合わせ、「欄と本文が食い違う」、「毎回同じ文」の順です。
そして看護師が埋める訂正文の空欄(数字や「有・無」を入れる□)は、1枚あたり平均7.4個。12個以上のものも57枚ありました。1か月分のカードを開いて、1枚ずつ7つも8つも空欄を埋める。入力が多いと言われて当然の量です。点検の仕組みそのものは訪問看護記録の自己点検をAIで行う3視点チェックで紹介しています。

「きつい」の正体は判定より表示だった
数字と画面を並べて見ていくと、厳しく感じさせていたのは判定の中身より、表示の作り方でした。主任・看護部長と話して整理した見立ては次のとおりです。
- 見出しの先頭に大きなばつ印と「評価なし」の文字が出る
- 赤が全体の3割を超え、画面がほぼ赤で埋まる
- 同じ型をまとめたカードで、関わった看護師の氏名と回数が並ぶ
- 普段から脈が遅い利用者のように、その人の「いつもの値」が考慮されず、毎回同じ赤が出る
- 空欄が多く、どこから手を付けるか決められない
どれも「看護の質が低い」と言われているように読めてしまう表示です。指摘の中身が正しくても、受け取る側が身構えれば書き足しは進みません。AIツールを現場に出す前に何を確かめるべきかは社内システムを現場に出す前の検証項目にまとめていますが、今回の件は「正しさの検証」だけでは足りないという学びでした。

1枚を「読む3行・埋める1文・押すボタン1つ」に
最初の手直しは9月30日に本番の画面へ入れました。カード1枚の流れを「読む3行 → 埋める1つの文 → 押す1つのボタン」に絞り、番号付きの質問リスト、できあがる文の見本、各欄の「わからない」ボタンをやめました。元の記録は折りたたみ、開いたときだけ該当箇所に色が付くようにしています。
あわせて、訂正文の空欄は1枚あたり原則4個・多くても6個と決めました。6個を超えそうなときは、カードを2枚に分けるか、決まった言い回しをあらかじめ文に入れておきます。空欄に入れるのは訪問した日の事実だけで、推測で埋めないという約束はそのままです。

言葉を置き換える:ばつ印をやめ、良い所を先に
次に手を付けているのが言葉です。いま看護部に意見を聞いている案は、次のような置き換えです。
- ばつ印 → 電球の印(「直す所」ではなく「書き足すと良くなる所」)
- 「赤=問題の箇所」 → 「黄色=見てほしい所」
- 赤・黄・白の3段階 → 「今月中に」「できれば」「ひとこと」
- 指摘の前に、できている点を1つ書く(例:血圧を測って入力できています)
- まとめカードで看護師の氏名を並べるのをやめる
- 利用者ごとの「いつもの値」を登録し、毎回同じ赤を出さない(記録に評価を書くかどうかの判定は変えず、同じ指摘の重なりを減らす案。登録する値は主任と看護部長が確かめる)
見出しも「A欄:評価なし」ではなく「この日の記録に、血圧86(収縮期)についての評価の記載が見つかりません」のように、何がないのかを文で示す形にしています。責める言葉を外しても、書き足す内容は1つも減りません。申し送りや記録の書き方を整える考え方は介護の申し送りと記録の二重入力でも触れています。

入力の形を5通り作り、看護部に選んでもらう
画面の形は、作る側が1つに決めるのをやめました。同じ指摘(架空の利用者・架空の値)を題材に、入力の形を5通り作り、看護部に配る説明資料に並べています。
- A:今の「1枚の紙」を見やすくしたもの(文字を大きく、空欄を減らす)
- B:1問ずつ答える形(質問 → 大きなボタン → 次へ)
- C:選ぶだけの形(ボタン中心で、手で打つのは数字だけ)
- D:元の記録と並べて見る形(パソコン・タブレット向け)
- E:話したメモをAIが文にする形(メモにないことは書かない)
どの形にも備考欄を付けました。「施設の看護師にも伝えました」のような事情や、主任へのひと言を書く場所で、記録システムには入りません。資料は印刷しても使えるようにし、各案に丸を付けて返してもらう形にしています。パソコンが得意でない看護師にも答えてもらうためです。

変えなかった4つのこと
見せ方を大きく変える一方で、次の4つは変えていません。ここを動かすと、記録の点検そのものの意味がなくなるからです。
①判定の基準:制度で求められる記録の要件や、令和8年度(2026年6月施行)の改定で強まった項目(訪問の開始・終了時刻、服薬・残薬の確認、主治医への情報提供など)は、意見を集める段階では変えません。変えるなら、集めた意見を読んでから基準書を直します。②記録は消さずに追記する:訂正は元の文を残したまま書き足す決まりです。③空欄には当日の事実だけ:覚えていないことは書かず、主任に相談する道を残しています。④外部のAIに氏名や記録の原文を送らない:説明資料や画面の検討も、すべて架空の例で作りました。個人情報の考え方は介護・医療の現場でAIを使うときの個人情報の扱いで詳しく書いています。

自社で同じ見直しをする手順
AIの仕組みが現場で使われないとき、当社は次の順番で見直しています。
①現場の言葉をそのまま書き出す
「きつい」「見にくい」「多い」のような短い言葉で構いません。主任や管理者を通じて届いた声も、言い換えずに残します。
②表示の問題と基準の問題に分ける
当社の場合、多くは表示の問題でした。判定の中身が正しいかの確認も続けたうえで、基準を下げたくなったら、先に見出し・色・空欄の数・並べる順番を疑います。どの業務からAIを入れるかの順番は介護事業所のAI導入はどの業務から始めるかを参考にしてください。
③案を複数作って、使う人に選んでもらう
1案だけ見せると「慣れれば使える」で終わりがちです。作り方の考え方はAIツールの要件定義、社内で仕組みを作る始め方はClaude Codeで介護事業の業務を自動化するにまとめています。指摘を看護師ごとのカードにして直し終えるまでの流れは訪問看護の記録チェックを「直す」まで回す方法に書きました。

よくある質問
AIの指摘が「きつい」と言われたら、判定の基準を甘くすべきですか?
当社は基準には手を付けず、見せ方から直しました。制度で求められる記録の要件は事業所の都合で緩められません。きつさの多くは赤の多さ・ばつ印・氏名の並び・空欄の数といった表示から来ていたため、そこを先に変えています。
訂正文の空欄はいくつまでが目安ですか?
当社では1枚あたり原則4個・多くても6個と決めました。直前の納品では1枚の平均が7.4個あり、「入力が多い」という声の大きな理由と考えたためです。6個を超えるときは、カードを分けるか、文の一部をあらかじめ書いておきます。
画面の形は誰が決めるのがよいですか?
使う人に選んでもらうのが近道です。当社は入力の形を5通り作り、看護部に印刷して配って丸を付けてもらう形で意見を集めています。作る側が良いと思った形と、年配の看護師が使いやすい形は一致しないことがあります。
AIで記録を点検するとき、個人情報はどう扱っていますか?
外部のAIに利用者や看護師の氏名・記録の原文は送らない決まりにしています。画面の検討や説明資料も、例はすべて架空の名前と値で作りました。点検の結果は社内の共有ボードで看護師本人と主任だけが見る運用です。
小さな事業所でも同じ見直しはできますか?
できます。最初に、現場から出た言葉をそのまま書き出し、表示の問題と基準の問題に分けるだけでも、直す順番が見えてきます。専用の仕組みがなくても、紙の指摘票の書き方を変えることから始められます。(2026-10-10 時点の情報。数字は当社の記録点検・2026年8月分の納品より。制度の出典:厚生労働省「介護分野における生産性向上ポータルサイト」)
- 現場の「きつい・見にくい・多い」を数え直すと、8月分は251枚・空欄は1枚平均7.4個で、厳しさの多くは判定ではなく表示から来ていた。
- 1枚を「読む3行・埋める1文・押すボタン1つ」にし、空欄は原則4個・上限6個に。言葉はばつ印をやめ、できている点を先に書く案で看護部の意見を集めている。
- 判定の基準・消さずに追記・当日の事実だけ・外部AIに個人情報を送らない、の4つは変えない。入力の形は5通り作って使う人に選んでもらう。




